ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

ルノアール新小岩店に、集まれ

 ルノアール新小岩店はすばらしい店なので、みなさん足を運んでみてください。おれは土日はたいていそこにいるからね。おごるぜ。

 ルノアール新小岩店はルノアールの名前を冠しているくせに、ふつうのルノアールとはぜんぜん違う雰囲気・メニュー・価格の妙な喫茶店だからおもしろい。

 まず雰囲気だけれども、なんというか、「昭和」だ。そうそう、こないだ可愛らしいお嬢さんと自動ドアの前ですれちがったんだけれども、店に一歩足を踏み入れるやいなや、「昭和……」とつぶやいていたよ。そんくらい昭和だよ。おれの主観じゃない。来るやつみんな「昭和」って言う。なにが昭和かって、まず、ほとんど店の全域が喫煙可能だ。禁煙席もあるが、はっきり区切られているわけじゃない。なんか、境界が曖昧だ。空調のおかげで、煙は禁煙席に流れないようにちゃんとなってるけど、でも、敏感な人はダメだろうと思うよ。この店は全席喫煙可だと覚悟して入ったほうがいいね。それから調度品が昭和だ。ソファがあのルノアール特有の高級感あるもこもこのやつじゃなくて、ビニールの、くすんだグリーンやベージュの、くたびれて黄ばんだ、愛嬌のある感じのやつだ。清潔感よりも愛嬌で売っている。おれはこういうの、好みなんだな。そんでもって客層が昭和だ。ルノアールといったら街中の喫茶店のうちでは高級な部類で、利用するのはだいたいビジネスマンか宗教勧誘と相場が決まっているけれども、新小岩店は違う。競馬で負けてふてくされてる地元のオジンがメイン・ターゲットだ。客の7割は競馬新聞を眺めている。またはスポーツ新聞を広げている。そんで店員にからんでいる。「あの馬券が70万だってよ。おれも買っておけば……」とか、「パチンコやるやつはバカだね。すぐに万札飲み込まれるもんな。競馬はその点100円で一攫千金、愉快なもんだよ」とか、そんなことばかりのたまっている。店員は客あしらいに手慣れたもんで、適当な相づちを打って笑っている。独特の、いい雰囲気だ。

 メニューも変わっている。まず、モーニングセットが開店から昼の15時まで注文可能だ。新小岩の定義では、モーニングってのは15時までの時間帯を言うらしい。そういう寝ぼけた感じの設定は、おれ、最高だと思うね。おおいによろしいじゃないか。人間、怠けているときは昼過ぎまで寝ちまうもんな。そんで目覚めて「朝飯でも喰うか……」という気分になったとき、ルノアール新小岩店は諸手をあげてわれわれを歓待してくれる。じつに、涙が出るほど嬉しいね。モーニングは「ハーフ・トースト」50円。「厚切りトースト」100円。このどちらかがオススメだ。確か(間違ってたらごめんよ)どっちにもゆで卵がつくよ。ワンコインだが、ボリュームもけっこうある。あと、コーヒー(ホットもアイスも)のおかわりは一杯100円だ。無限に100円でおかわりできる。だいたいおれも愉快な気持ちでおかわりコールを1、2回する。ガムシロップをアイスコーヒーにどばっと入れて、甘い甘いとつぶやきながらゆで卵をアイスコーヒーで流しこむ。これが至福の時間なんだな。おれはいつも100円の厚切りトーストを注文するんだ。ちなみに一杯目のアイスコーヒーは510円だ。これも、都心部ルノアールに比べたら安いほうじゃないかね。場所によっては、もう100円、200円高かったと思うよ。おかわりサービスはもちろん、新小岩店だけだろうしね。おれも、そんなにいろんなルノアールに行ったことがあるわけじゃないから、わからんけど。あと、目玉はランチメニューだ。カツ丼、チキンカツ定食、からあげ定食、かにクリームコロッケ定食……およそ「ルノアール」には似つかわしくないような定食が、われわれ武士(もののふ)の胃の腑を満たすべく、ばっちり完備されている。こっちもちゃんとウマいぞ。900円前後で、コーヒーもついてくる。だもんだから、おれは休日の栄養はもっぱらルノアール・オンリーだ。つい、たむろしちまうよな。新小岩店はいいぜ。

 おごるからな。みんな来てみてくれよ。