11Gods
僕は救いの無い世界に憤りを感じた。
強い義憤に駆られた。義憤?いや、そんな高尚なものではない。
単純明快で、恐ろしいほど強大な怒り。
怒りは肉体を駆け巡るに留まらず、僕を具体的かつ逸脱した行動に駆り立てた。
それは禁じられていた儀式。
檻の向こう側を望む禁忌。
――その儀式は成功した。
僕の怒りは頂点に達した。世界が悲鳴を上げるほどの怒りだ。
肉体が引き裂かれる怒りだ。生命を脅かす怒りだ。
怒りの炎は舞い上がり、怒りの雷雨が天轟き、怒りの鉄槌が精神を撃った。
僕は怒神を呼んだのだ。怒りの使役、怒神の使役を望んだ。
――そう、儀式は成功した。
その日、僕の感情に、怒神《ヴァルギオストス》は宿った。
11Gods-2
かくして僕は怒りを行動に移す力を手に入れた。
怒りは常に原動力だ。怒りは世界を変革する力だ。
怒りを無自覚に産んでいる穢れた母に、《ヴァルギオストス》の裁きを下さなければならない。
怒りを無自覚に育んでいる呪われた父に、《ヴァルギオストス》の審判を下さなければならない。
僕が怒りに腕を任せれば、《ヴァルギオストス》はその裁きの腕を差し出した。
僕が怒りに足を任せれば、《ヴァルギオストス》はその審判の足を差し出した。
怒りは産み出され、解放され、変革する。
世界は怒りで動いている。
しかし僕はこの無常なる世界に目的を失った。
目的を失う怒り――解放しなければならない。
家畜の群れと檻に向かって、解放しなければならない。
僕は怒りで世界に復讐する。
11Gods-3
家畜達は自らの運命を呪った。
家畜達は自らの運命を呪う知恵があった。
家畜達は自らの運命を変える知恵があった。
しかし、家畜達は知恵の使い方には無知であった。
怒りは至らなければ醜い。
醜い怒りは怒りではない。呪いだ。
呪いは醜い怒りだ。至らない不完全な過ちだ。
子供に怒りをぶつける男がいた。
男の怒りは自ら生み出したものだった。
自ら生み出す怒りが、至ることは少ない。
例に漏れず、その男の怒りは怒りではなく、呪いだった。
呪いは子供の命を絶つ。
子供は怒りを手に入れることなく、手に入れたとしても、行使すること無く、散る。
僕は怒りを抱いた。世界の動力を錆付かせるこの男に。
呪いを矜持にする愚かな男に。
呪いは赦されない。
《ヴァルギオストス》の手が男に向かった。
男は目を剥いた。男は僕を呪った。
《ヴァルギオストス》は機敏に反応した。
次の瞬間男の頭は、首から外されていた。
その次の瞬間には、男の肉体は全体を成していなかった。
抱いた怒りをすぐに解放できた充実感に、僕は満足した。
その日はよく眠れた。神と一体となる夢を見た。
11Gods-4
予想以上に怒神は感情に馴染んだ。
やはり人は、怒りで動くように出来ているのだ。
人はパンで生きるにあらず、怒りにて生きるのみ。
先の一件で僕は、家畜たちの呪いの的となった節がある。
しかし同時に、礼賛の的ともなったようであった。
呪いの代行者の出現に対する喜びを、家畜達は感情で示したのだ。
そしてそれは、家畜の家畜たる所以でもあるようだ。
自らの怒りを呪いと堕させることに甘んじているのだ。
本来ならば《ヴァルギオストス》の降臨を、喜びで迎えるということがあってはならない。
喜びで迎える彼らは、もはや世界の理から外れる道を直進しているようであった。
僕はひたすらに人でありたい。
この胸に怒りの感情が渦巻くから。