ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

夏に読みたい一冊は詩人の手に

今週のお題「夏に読みたい1冊」
夏に読みたい一冊、うむ、なんとも難しい。
万巻の書世の中に存在すれども良書は限られる。
しかしてその数少ない良書の中から一を選び出せと言われても、これはこれで厄介な仕事であろう。
だが豊かな霊験と言語表現への根本的理解に迫った、いわゆる詩人と言われる男達ならば、その難題を難なく解決してみせることだろう。
詩人こそ褒むべきかな。
言語の秘儀が忘れ去られてしまった現代において、少なからぬ宗教的努力を以ってして古の祭祀を復活させようとする彼らの営みには最大限の賛辞を与え庇護するべきだ。


不幸にして私には詩人の友が少ない。だが今回は、友を選ばば詩人に限るとはよくぞ言ったものだが、数少ない私の友の中の一人、卓越せし幽玄の詩吟家、真理語の大家、大なる挑発者、磯山和人にこそ夏に読みたい一冊の紹介の任を担ってもらおう。



磯山和人は自身の著書『塩の言葉へ』において以下のように語っている。

真に賢なる諸君らよ聞け/万物の偽を以ってして/異邦の土の地理を暴くな/余は吠える犬をして/諸君らの賢なるを説かせない/諸君ら万物の偽を試すな/諸君ら万物の偽を喰らうな/余はまだ見ぬ諸君らの理に訴う/言語を扱うは余の如きに任せられよ/余は言語に鞭打ち藁を食わし水を与え/襲歩で再び参上しよう/そのとき諸君ら歓呼せよ/言語はもはや馬ではない/悠遠不朽の神龍(ノヴァ・ゲルツ)也


ここで磯山によって主張されていることは、1.決して言語の素人が御者台に上ってはならない 2.詩人の手を通した暴れ馬はもはや馬ですらない、さらに大なる異物へと革新する ということである。つまり磯山はまさに、夏に読みたい一冊を推薦するべき人物として、否、むしろ推薦することができる唯一の人間として、自らの詩人像を示すのである。


そして彼の言行録『よせ、もう私は明日のペスト菌さえ予期している』において以下のような書が推薦されているのが分かる。


余は考えた/『葱と箱舟』/『盗掘師の脱獄』/『菓子店からの逃走』/『土地の粋と反逆の狼煙』/『ガラスに入れたゲルタ』/『重罰を逃れるゲルタの子』/そして全てのものより優れた拙著『現代詩集』


もっとも強調されて推薦されているのは列挙の最後に置かれた磯山自身の著作『現代詩集』である。決して磯山の安っぽい自画自賛によって自身の著したものが挙げられているという誤解をしてはならない。前述の通り、磯山は詩人の詩人たる存在意義を、いわば言語のトランスミッターとしての役割に置いているのだから、あらゆる観察を以って宇宙と調和し、理解し、何がしかを生み出すことができる己の技量をこそ強烈な矜持の颶風で示すことは必然なのだ。



夏に読みたい最良の一冊、それは磯山和人著『現代詩集』である。