ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

「(株)ダーキニー工業」新人研修体験記 1

 四月一日、あろうことか、十年に一度の気まぐれを起こした真理人・東野猛は上場企業「(株)ダーキニー工業」の新人研修所へ向かうバスに揺られていた。

 気まぐれ。そう、まったくの気まぐれだ。東野猛ほどの男が生活上の必要に駆られ、会社などという低俗な商人集団に仲間入りすることなどありえないのだから。前年度東野は、その生まれつきの物好きが高じ、戯れに就職活動をおこなって当然のことながら容易く百の内定を獲得していた。内定を得たところでどこへ入社する意志も無かったのだが、好奇心から、まあ数日くらいならサラリーマンの身分になってみるのも悪くないと思い始めたのが九月のこと。十月には手持ちの内定カードのうち、特に世間の評価が高い企業「(株)ダーキニー工業」の内定者懇談会に参加していた。そしてそのまま内定を承諾したかたちとなり、その日、四月一日、本来なら生涯巡り会うこともなかったであろうつまらぬサラリーマン階級の連中と、我らが第一の真理人、東野猛が同じバスに詰め込まれていたのだ。

慶應義塾大学法学部卒の鈴木タローです。よろしくお願いします」

一橋大学から来ました、大沢ユキオです。よろしく〜」

青山学院大学出身の、本沢ゆきのです。よろしくお願いしますねっ」

「あっ、あたしも青学だよっ。藤崎ゆりです〜。ゆきのちゃんヨロシク!」

「ゆりちゃん、よろしくね〜っ」

 新人同士が挨拶、自己紹介を交わす。バス内に和やかな雰囲気が醸し出された。新人は男二十五人、女二十五人の、ちょうど五十人。男女比は一対一。誰もが新しい生活と環境に希望を抱き、期待に胸をふくらませているらしい。彼ら彼女らの瞳は秩父の上流水のようにきらきらと輝き、澄み切っている。わいわいがやがやと、楽しげな雑談。大学のサークル話。今後のキャリアプラン。フレッシュな話題が尽きることはない。座席が近い同士グループをつくって、いかにもこないだまで学生だった若者たちの、ヤングなコミュニティが形成される。そんな小集団に属していないのは、五十人中一人、東野くらいのものだ。東野は窓の外をじっと見つめて、いかにも流れゆく景色に興味があるようだったが、実際は、ただ誰にも話しかけられないよう、近づきがたい態度を意図的に演出している。

「……ゲルタよ………………」 

 憂鬱そうな表情を浮かべているものの、東野の気分はむしろ遠足に臨む女児のように高揚している。いくらホワイトカラーとはいえども所詮労働者、人に使われる宿命にある人種の集まり。そんな低級な者たちの社会というものを内側から見物する機会は、東野のような貴族にはまず与えられない。言ってみれば動物園で珍獣の群を冷やかすような感覚で、東野はこの企業に入社していた。東野や我々真理の徒から見れば、会社人など珍獣の類に他ならないのだから。しかし、好きなだけ長居が出来るというわけではない。貴重な時間をいつまでもこうした観光に使っていてはいけない。せいぜい数日間の楽しみに過ぎないのだが、多忙な日々、真理を追い求める過酷な戦いの毎日から隔絶されたこの慰安旅行を、東野は精一杯堪能しようと考えていた。

「あ…………あのっ……」

「…………」

「あのっ…………えと……もしもし?」

「…………?」

 まったく意外なことに、東野は一人の同期から話しかけられた。窓から顔を離し振り向くと、隣の席の女が恐る恐る笑顔を向けてきている。スーツの胸元からこぼれ落ちそうな胸とは対照的に、中学生と言われても違和感のない幼い顔つきの、ショートヘアーの小柄の女。東野が反応したことに安堵したのか、ほっと息をついてから、

「あの、私、東京大学文学部卒の、双葉みなみと言います。これから一緒にがんばりましょうね!」

 就活で無敵の猛威を振るったであろう、気分のいい満点スマイルを発動する。そこには同期の輪から外れているシャイな男の子、すなわち外ばかり見ている東野猛を救おうという、純粋な好意と同情が含まれていた。対する東野は仏頂面で、

「丁寧な挨拶、恐れ入る。普段なら、貴公のような既に性器の腐敗している老婆とは関わり合いになりたくないものだが。しかし同じ船に乗り込んだからにはそうも言ってられん。名乗っておこう」

「え? せいき……? ふはい……?」

「――幾多の戦乱を勝ち抜き、地上においてはあらゆる華々しい凱旋を実現してきた剛勇、槍を手にしては敗北知らざる男、東野猛。俺は東野猛という者だ」

「あ……あ、はい。うん。そっか……」

 双葉みなみはスマイルを撤回し、苦い顔をして藤沢ゆりらが楽しく会話するグループへ帰還した。

 東野は窓の外を眺める仕事に戻った。

 ***********

 人里離れた山奥の新人研修所に到着したバスから、続々と新人が降りる。すでにいくつもの仲良しグループができており、じゃれ合いながら群馬の土を踏む。新人を出迎えるのはスーツ姿の三十代の男。背は決して高くないが、アメフト選手のようにがっしりとした体つきと、季節はずれの日焼けの痕から察するに、なかなかのスポーツマンであるらしい。降りてくる新人の名札をチェックし、黙々と名簿に到着の印をつけていく。バスから降りると同時に、新人はみな男に挨拶したが、男は顔を上げようともしない。そんな態度を異様に感じた新人たち。困ったように辺りをきょろきょろ見渡すが、助け船をよこしてくれる人間はいない。バスは行ってしまった。残されたのは不安な面もちの新人たちと、おそらく新人研修の担当者である、男。バスからは全員が降車しているのに、男は何も言い出さない。新人たちは不審に思い、いよいよ口を閉ざして静寂を迎え入れた。静かになって初めて男は口を開いた。

「テメエらそれでも社会人かっ、アアん? なめてんじゃネーゾッッ!!」

 手にしていた名簿を地面に叩きつけ、ボールペンを派手に折る。もはやただのプラスチック片と化したボールペンの残骸を、手近にいた新人――鈴木タローに投げつけた。飛び散るインクでYシャツを汚した被害者の鈴木は、あまりの迫力に抗議の声を上げることも出来ず、ただおどおどと身体を震わせるばかり。男は鈴木を軽蔑するように睨んで、

「……フン。俺はお前ら新人の教育を担当する、高木だ。お前らまだ学生気分が抜けてネエようだな。今日から社会人だというのに、挨拶ひとつ出来やしない。バスを降りて俺に挨拶したのは何人だ? たかが知れてるんだよ。挨拶ってのはな、感謝の心と夢とやりがいが詰まってなきゃ挨拶っていわネエんだ!! お前らのは挨拶じゃネエ! だから返事をする価値もネエ! 分かったか!」

「「「…………」」」

「返事もできねえようだなァ!! ぶっ殺されテエのか!」

「「「は……はイ!」」」

「声がちいせえじゃろガアアァァァァァアアア!!」

「「「ハイ!!!」」」

「全員! 研修寮まで駆け足!! カケアシ!! カケアシィィィイイイイ!」

「「「ハアアァァイ!!!」」」

 新人たちは自分の身に何が起こっているのか理解できていない。(株)ダーキニー工業といえば、言わずと知れた大企業である。王将の如き、絵に描いたようなブラック研修教官が、このスマートな企業に存在するはずない。しかし目の前で怒鳴る高木という男は、間違いなくそうした暗黒人材の一人だ。これは幻覚ではない。確かなリアルなのだ。OJTもへったくれもあったもんじゃない。そういや今日は四月一日である。エイプリルフール? 新人歓迎のドッキリか? 研修寮には宴会の準備がしてあって、先輩社員がドッキリ大成功の看板を手に待機しているのか……? そんな楽観的な妄想にとりつかれた新人も、一人二人いなかったわけではない。

 ――残念ながらその期待は、ことごとく裏切られることになる。

 大きな荷物を抱えて研修寮に駆け足する新人たち。男どもはまだいいが、女たちの服装はスカートであり、かつ五センチほどヒールのあるパンプスを履いている。その上宿泊用荷物の重さが加えられてしまっては、女新入社員の誰かが転倒することは必至であった。

「きゃっ……!」

 ほら案の定、バスの中で東野に話しかけていた女、双葉みなみが前のめりに転んだ。ハロー・キティのステッカーが貼り付けられた、赤のスーツケースが前方に放り出される。スーツケースは宙を舞い、地球の引力に逆らうことなく放物線を描く。ドタンッ。地面に落下した衝撃でロックは解除され、蓋がベロリと開封、内容物がぶちまけられてしまった。みなみはハッと息を飲み、無駄と思いつつも荷物の方に手を伸ばす。しかしながら惨めなことに、白や桃色の下着を含む衣類や生活用品が散らばってしまった。同期の男どもの不躾な視線が、散乱したプライベートな持ち物に注がれる。みなみが涙目で起きあがり、脱げた靴を履き直していると、バスで仲良くなった藤崎ゆりが寄ってきてくれた。

「だ、大丈夫?」

「うん。……でも、荷物が……」

「大変! すぐに片づけなきゃ」

 ゆりが気を利かせて、男たちの好奇の目を避けるべく衣類を手早く回収する。その間に後ろから、教官高木が追いついてきた。高木はゆりに訊ねる。

「おう。どうしたんだよ。何やってるんだよ」

「高木さん、双葉さんが転んじゃって……」

「バカヤロがアアアァァァァアア! ヨォ! ヨォ!」

 突如激昂する高木に、思わずびくりと身体を反応させるみなみ、ゆり。やっかいごとに巻き込まれたくない新人たちはヤゴの鋭い矛から逃げ出すオタマジャクシの如く、我先にと寮を目指して駆ける。たちまち二人は同期四十七人に追い抜かれてしまった。高木は仁王像の憤激にも劣らない、恐ろしい怒りの表情を崩さぬまま威圧的に続ける。

「転んだだと? 転んだらお客サンは待ってくれるのか? 待ってくれねえよナア? 仕事の期限、これを納期っていうんだけどヨ、納期は確実に守らなきゃいけネエよなあ? 俺は駆け足で、素早く寮に行けと言ったんだ。『素早く』ってのがいわばテメエらに与えられた納期だろうが。それがどうしてこんなところで油売ってやがる? え? 素早くって指示したんだからどんな事情よりも優先して寮に向かうンだヨォ!」

「…………はい。申し訳ございません」

「このクソガキが! エ!」

「きゃんっ!」

 高木は立ち上がりかけていたみなみの腿に一発蹴りを放った。みなみは再び倒れ、膝を擦りむく。

「根性がネエんだよ! …………ん? これは」

 みなみのスーツケースに歩み寄り、高木は中から一枚の布をひっつかんだ。先ほどゆりが拾って戻しておいてくれた、白のショーツだ。

「オイ。こんなモン俺に見せつけて、どういうつもりだ?」

「あの…………見せつけてなんてないです。返してください……」

「ウチはコンプライアンスには厳しいんだ。これは上司に対する逆セクハラだよナア! 異性に、しかも上司である俺に下着を見せつけるとは許せん!」

「そんな…………!」

「そもそもパンツなんてモンが持ってきてるからいけネエんだ! 研修にパンツは必要か? エ? お前の下着は全部没収、没収! お前にパンツは必要ネエだろ!」

「やっ、何をするんですか!」

「うるせえ!! 口答えか! おい!」

「ひっ…………」

 高木は鬼気迫るといった勢いで、スーツケースをひっかき回し始めた。そして手にした一週間分の下着。白三枚、桃色三枚、水色一枚のショーツとブラジャー。

「でっけえブラだな。お前、身長は小せえし、顔もガキっぽいくせに、おっぱいにだけは無駄に養分蓄えてやがんな。ま、いいや。こんなものは没収するに限る」

「うぅ……ぐすっ……ふえっ……」

「泣きやがった。これだからゆとりは。いいか、すぐに荷物をまとめて、駆け足で寮に来い! 二分以内にこなかったら、今身につけてる下着も没収するからな! オラ、立て!」

 子鹿のようにぶるぶるやっと立ち上がると、みなみはもう一度強い衝撃を受けて崩れ落ちた。高木がみなみのおしりに全力の平手打ちを喰らわしたのだ。

「なかなか張りのあるケツじゃネエか!! 早く来いよ!!」

 高木は寮へ向かった。みなみはいつの間にかゆりがいなくなっていることに気がついた。高木を恐れ、気づかぬ間に寮へ去っていったらしい。女の人間関係にありがちの、非情な合理的選択というやつだ。

「うぅ……もうやだぁ…………パパ、ママ……」
 
 みなみは父母の顔を思いながら天を仰いだ。

 ***********

「連帯責任って知ってるかヨ、テメエら!!」

 高木の怒号が研修寮の大広間にこだまする。新人たちは荷物を自室に置いた後、この大広間に集合させられ、壁沿い横一列に整列していた。そこはホテルの多目的パーティーホールのような広間なのだが、そこには新入社員歓迎立食会のための準備もなければ、エイプリルフールのたね明かし会の用意もなかった。それどころかテーブルやイス一つ設置されていない。赤い絨毯と白い壁、シトリン色のシャンデリア、その三つの要素のみから空間が構成されている。高木はどこからか持ってきた竹刀を肩にかつぎ、新人たちの前をうろうろ行ったりきたりしながら怒鳴る。

「テメエらは今日から社会人だ。社会人の基本は挨拶、連帯責任、時間=納期厳守! 働くにあたって、この三つは当然出来ていなきゃお話にならネエ。ところがどうだテメエらと来たら、給料もらう身分になったってのに、まるで学生気分が抜けてネエ! 甘えが消えてネエ!」

 大声で新人を責め立てながら、高木はノシノシとわざとらしく双葉みなみの前に歩み寄った。そしておもむろに、みなみの小さな額を指で強くグイと突く。みなみはよろめいて酷く脅えた顔をした。高木はみなみに意地悪い視線をぶっつけ唸る。

「この女ァ! この女は時間=納期を守らなかった! 俺は素早く寮に駆け足で向かえって指示したのにヨォ、コイツ、パンツばらまいて男の気ぃ引いて、道草食ってやがったんだ!」

 「パンツをばらまいて」。なんとも異様な言葉。みなみがスーツケースをぶちまけたという事情を知らない駆け足先頭集団の新人たちは、パンツをばらまくという言葉の意味を理解しかねて思わずみなみの方へ視線を向けた。みなみはそれに気づいて顔を赤らめ、静かに泣き出す。高木はそれでも容赦しない。

「そんだからよ、コイツは駆け足ビリッケツだったわけヨ。圧倒的ビリ。会社のお荷物! 給料泥棒! こんノロマ! ドンクセエ女ァ! タコ! 素早く寮に行けって言ったろうがヨ! どんだけ時間をかけりゃあ気が済むんだァ! 俺言ったよナア、二分以内に来なかったら、身につけてるパンツ、ブラも没収だってヨォ! お前、結局四分かかったんだよナア……」

 ビクリと、みなみは身を震わせた。身につけている下着まで奪う――この教官ならやりかねない。だがしかし、高木はみなみの予想の上を行く要求を提示した。

「……だがナ、一人のミスは全員のミス。連帯責任だ。連帯責任を俺はテメエらに教え込んでやらなくちゃアいけネエ。だから……この双葉みなみの代わりに、他の全員、四十九人が下着を脱げ。今ここで、すぐにだ。そんでもって没収だ。双葉みなみ以外の者の下着を没収する。双葉みなみは他の連中がフルチン・モロマンになるのを突っ立って眺めてればよろしい」

 張りつめた雰囲気の中、新人たちはこの高木教官の言葉が果たして本気なのかそれとも冗談なのか判断をしかねていた。研修所到着早々の激怒や、研修所までの駆け足強制、軍隊式整列の指示などは、ブラック企業的研修のプログラムとしては、納得はしなくとも理解の出来るものである。しかし下着を脱げというのは……さすがに王将研修でも要求しないだろう。王将どころか、いやしくも(株)ダーキニー工業が会社法人、企業であるならば、そんなことを新人に課すというのはありえない。高木が決して冗談を言っているのではないとようやく気づいたのは、高木の手の不気味な竹刀が藤崎ゆりのわき腹にめり込んだ時だった。

「脱げや! ドラアアアアアアア!」

 ビシィ――!

 ――ボグッ。

「いやああっ! 痛いっ!」

 あばら骨の折れる鈍い音。高木は下着を脱ごうとしない新人たちに業を煮やし、唐突に、藤崎ゆりのわき腹にしたたかな打撃を加えたのだ。そのための竹刀だったのだ。ゆりは隣の新人にぶつかって転倒、そのまま激痛に苦しみうずくまった。押し殺したような苦痛の吐息が歯垣の間から漏れ出している。青山学院大学卒の女にとって骨折の痛みはとても耐え難いものだ。そんなゆりを高木は米俵を扱うように持ち上げた。ゆりの頭が後ろに、足が前になるようにして抱え込んだのである。ゆりは痛みにより抵抗することも出来ず、腹を両手で押さえて小刻みに歯ぎしりをしている。

「アラヨッ! テメエら! こうして俺に脱がされたくなかったら、自分で脱げ!」

「うぐうううううぅぅぅ!」

 高木はゆりのスカートを脱がした。ストッキング越しに白いパンツが露わになる。尻の肉に食い込むパンツが新人たちの視線の下に晒される。すぐにストッキングも破り捨てられた。真珠みたいにつやつやの白いパンツだ。さながら尻は真珠を包む貝肉である。ゆりは苦しみながらも自分が何をされているのかは理解しているようで、必死に悲鳴を上げようとしているのだが声にならない。新人たち、とりわけ男たちの注目を浴びながら、高木はためらうことなくそのパールパンティにも手をかけた。女性の下着を脱がすという行為に伴う情緒など、高木はまるで問題にしていない。ただただ新人に適切な教育を施す、彼の行動にはそれだけの意味しか込められていないのだ。だからずばっと一気に、いやらしさも意地悪さもなく、機械的にパンツは脱がされた。

「んんんんっ――――――!」

 隠されていた尻の割れ目が明らかになる。ゆりの尻の真っ正面にいる新人たちは、尻の割れ目から性器の谷に続く、下半身の後方から前方へと一筋とぎれない神秘の曲線を目にした。ゆりの陰毛は整えられており、こうして尻側から性器を見るとまるで無毛のようである。ゆりはせめてもの抵抗として足をぴったり閉じた。サーモン色の肉が奥に引っ込む。性器はドラヤキを横から眺めた時のように、縦の細い直線を形成した。

 ***********

 次回あらすじ:双葉みなみのせいで新人たちは互いに下半身を晒しあうこととなった。藤崎ゆりが高木教官の手によって強制的に脱がされるのを眼前にして、男たちはそのような屈辱的な目に遭うよりかはまだ自分で自分の性器を露わにしたほうがマシだと次々とズボンに手をかける。双葉みなみは手で顔を覆い男性器を見ないようポーズをとるが、実は指の隙間から性器を観察していた。女たちもちらちらと男たちの性器を眺めつつ「脱がされるくらいなら、辞めます」と辞意を表明するが、高木はそれを許さない。「採用にもコストがかかってるんだよ。そんな不義理をして許されると思ってんのか。裁判して賠償請求してもいいんだぞ、エ?」。高木の剣幕に女たちも観念して、なんとかスカートの中でパンツを脱ぎ、性器を晒さなくて済むように頑張るが、高木が「下着提出の納期」を設定したことで、そのような高度な着替え術を用いることは許されなくなった。スカートもストッキングもパンツもシャツもブラも一気に脱いで、すっぽんぽんで下着を提出しなくては納期に間に合わない時間設定なのだ。納期を破ったら、これ以上に酷い罰が待っているという。泣きながら女たちはすっぽんぽんになった。ショーツ、ブラを高木に提出する女たち。何人かの女のショーツには、性器のスジのシミがついている。それを高木は新人全員に見えるように掲げ、厳しく指摘する。「こういう下着の不潔さは、製造の現場の不潔に繋がる。それは商品を汚し、不良品を発生させる原因となる。意識が甘い」。ところで藤崎ゆりはあばらの痛みのために気を失っていたが、勤務時間中なのに気絶してサボるとはどういうことかと高木、激昂。高木は唯一下着没収を免れている双葉みなみに、ゆりを起こすよう命令する。みなみは命令通り、自分の人差し指をゆりの肛門に突っ込んでゆりの目を覚まさせるのだった。そうして再び全員一列に整列させ(男はフルチン、女は全裸のまま。双葉みなみは着衣)、初日のスケジュールを伝える高木。高木が何気なく新人の人数を数えると、一人足りない。慌てて名簿と顔を照会している最中に、東野猛が大広間に入ってきた。足りなかったのは東野だったのだ。寮へ向かう駆け足でビリだったのは双葉みなみではなく、東野猛だったのだ。その時やっと東野はゴールしたのだ。何をしていたかと問えば、研修寮の外で日に当たりながら神学的思索にふけっていたと言う。気も狂わんばかりの叫びを上げ、竹刀で東野に襲いかかる高木。しかし東野は体内より十一怒神の内の一柱《マハトソンベルークト》を顕現させ、高木の精神領域をとことん痛めつける。高木は東野に関する記憶を失い、東野を見てもそれを人間と認識出来なくなった。以降東野は高木の指示を無視し、好き勝手に研修を冷やかして遊ぼうと心に決める。とりあえずどういうわけか性器を露わにしている滑稽な新人たちの姿を写真に撮り、真理探究SNSにアップロードするのだった。新人たちは東野が高木から注意されないため、東野を教官の一人と勘違いし、恐れるようになる。ひとまずその場は解散。午後、部屋に戻って下着を身につけ、ちゃんとした格好に戻った新人たち。双葉みなみは違和感を抱く。バスで仲良くなったはずの同期が、どうもよそよそしい、いや、かなり冷淡なのだ。無視する者もある。特に藤崎ゆりは目も合わせてくれない。「どうだ、これが連帯責任ってヤツだ」――高木がみなみの耳元でささやく。「テメエの失敗を仲間が後始末する――仲間はテメエを憎む。憎み合い、相互に監視し合う。これが連帯責任の効果。これがあるからこそ組織は効率よく動く」。双葉みなみは同期の中で完全に孤立したのだった。開始される陰湿ないじめ。特に「連帯責任」がああした形だったため、性的ないじめが頻繁に繰り返される。精液で汚される持ち物。トイレ盗撮。胸への故意の接触。スーツの切り裂き。十五時、再び大広間に集合した新人たち。高木は過酷な十日間の研修の開会を宣言する――そして課される狂気の課題とは。乞うご期待。