ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

【第一話】黒い砲身 03

 「……というわけなのだ。タレゾ大尉の額の傷には、オデュッセウスの脚の古傷とでもいったように、見るものにその武勇を思い出させずにはおかないこうした伝説的な由来があるのさ!」

 「感服致しました、曹長殿。自分も早く大尉のような手柄を立て、この海と緑の地球のため真に大なる貢献を果たしたいものです。さしあたっては大尉殿にこの上ない尊敬と畏怖の念を捧げまして、たゆまぬ忠勤ぶりをご覧いただきたいと存じますが」

 「だ、そうですよ大尉殿。また大尉を崇拝する一人の尖兵がこのフカヤに生まれましたな」

 「部下の愛情が胸の中に広がって……うん、OC!」
 
 宇宙世紀0080年以降流星のようにもたらされたタレゾ大尉の痛快な活躍ぶりが、老ホメロスの吟唱にも劣らぬ堂々たる格調を保ちながら叙事詩的に語り尽くされた。こうしてフカヤ基地の兵たちは新入りへの歓迎の儀式を一通り終え、本当の意味で新参者を自らの仲間としたのだった。神話を共有するということは、組織内に強力な結合と調和を実現するということでもある。タレゾ大尉の神話を共有することで、フカヤ基地の男たちは堅固なアイデンティティを抱くことが出来るのだ。

 「それじゃあ我らの新たな戦友よ、本当の意味で我々は戦友同士となったのだからな、さっそく街に繰り出そうじゃないか。街には女がいる。女は俺たち兵隊を視界に捉えるやいなや、きゃっきゃと笑って逃げ出す。それをまるで地獄の猟犬のように追い回し、野ウサギみたいに捕まえちまうのさ。そんでトラックの荷台に詰め込んで、基地のレクリエーションルームに連れてくる。そっからは軍服脱ぎ捨て無礼講、愉快な晩餐と舞踏会の始まりだ。狩りと社交、まあ一種の貴族的娯楽だな」

 頃合いを計ってさっそく、整備兵の一人が女狩りの提案をする。彼は朝からどうも人肌恋しくてうずうずしていた口なのだ。そう思っていたのはしかし一人だけではなかった。この提案に賛成する者たちが、一斉に高らかな喚きを上げる。

 「そうすることにしようや! どうもこの新兵、女を抱いた経験がないと見える。実際どうなんだ。お前の故郷の女の味はどうなんだ」

 「軍曹殿ご推察の通りです。自分は女というものをまだ知りません」

 「ほれ見い! フカヤの女というものを教えてやろうや! あの小鳩たちなかなか悪くない器量を持ってるよ」

 「だが一体どんなのを狙うことにしようか! 若いのか、熟れたのか、下賤の奴か、それとも上等な身分の奴か。いずれも俺たち天下の連邦軍の男たちにとっては、雑作もなく組み伏せられる相手なんだが」

 「俺はもう夫のある、熟れた女がいいと思うぜ。女の柔らかい肉体の具合がいいってのはもちろんのこと、間抜けな夫の顔を想像するだけで面白くなっちまって、ありゃ愉快だからなあ。連邦軍万歳!」

 「野郎馬鹿言うない、老けたオバンを抱いて何が愉快なんだ。俺は若いのを狙うべきだと断固主張するね。それも特に若くて新鮮なやつをさ。ちょうど今日はフカヤ第一女子中等学校が半ドンの日じゃなかったか? 下校する可愛い少女たちを待ち伏せてさ、オキアミを飲み込むクジラみたいに、100人でも1000人でも荷台に押し込んで連れて来ちまうのさ」

 「と、なると、素朴で陽気なネギ百姓娘じゃなくて、市街地のひらけたお嬢さん方を我らのパーティーにお招きするというわけだな。保護者がまたうるさいことを騒ぎ立てるんじゃないか」

 「へん。そうなりゃ平和の使者ジムIIが仲裁に入るまでよ。俺たちの基地にだってビーム・ライフルはあるんだ。きっと向こうから泣いて仲直りを要求してくるぜ。博愛主義の俺としちゃ、そうした仲直りはやぶさかじゃない。何より楽でいい」

 「お前らムクドリみたいに自分の欲ばっかりわめき立ててるが、大尉のご意見を伺おうじゃないか。どうだ」

 「賛成だ」

 「そうするべきだ」

 「もちろん大尉のご意見は尊重されるべきだ、何よりもまず第一にな」

 「大尉、今日はどういった趣向で女を楽しみましょうかね。新兵の歓迎会も兼ねましてね、一つ盛大に」

 「えー、今日は……今日の趣向は……今日のコンセプトは……」

 欲望に目をギラつかせた男たちが、行儀よく大尉の返答を待ち受ける。タレゾ大尉は一呼吸おいてから、にっこりとした顔で答えた。

 「今日のコンセプトは……素人にしてはなかなか凄い脱糞、だな」

 「な……なるほど」

 「そう来ましたかい」

 「そんなら獲物は若いのに決まりだな。中等学校の女子生徒を狩ることにしようや。そうだろう諸君? 脱糞ということについて、無垢な少女たちは永遠の素人と言えようからな。熟れ女の排泄など見ても仕方あるまい。胸が悪くなるだけだ」

 「それがいいや。大尉殿のおっしゃることはもっともだよ。今日は素人の、すなわち可愛い少女たちのなかなか凄い脱糞を楽しもうや。見てもよし嗅いでもよし、触っても舐めても食ってもよし、虐めてよし虐められてよし、俺によしお前によし、おきゃんな娘に大変よし!」

 思い立ったが吉日、勇ましい叫びの男たちはさっそく街に乗り込むべくガレージのジープに飛び込む。よく気の利く数人の者は、ウイスキーのビンや上等の葉巻、電子ドラッグ、弾の装填してある拳銃、メリケンサック、拷問用の指詰めペンチなどを後部座席の足元に投げ入れた。捕らえた少女たちを護送するための10トントラックは、この狩猟の指揮官であるタレゾ大尉と彼の女房役である曹長が担当する。

 「助手席にどうぞ、大尉。自分が運転します。もし小腹など空いておりましたらそこのバスケットのバナナを召し上がって下さい。今朝、朝市で買ってこさせたものです。大尉はバナナに眼がありませんからな」

 「ヴァララを食べますぅ! ――うん……ふふっ……OC!」