ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

ネスケモ探検隊の上陸

 本日午前8時頃、ネスケモ探検隊は蒸気船マルトフリース号からボートにて、太平洋に浮かぶ未踏の島、セント・フィランゼ島への上陸に成功した。ネスケモ探検隊全8名がボートに搭乗したのであったが、島の巨大岩のごつごつした海岸へ達するまでに怒涛の荒波に攫われ、内3人が行方不明となった。よって上陸したのは5名である。5名各々はおそらく殉職したであろう3名をインディアン式の儀式で弔い、身支度をしてさっそく岩肌を濃く覆う森の中へと入って行った。

 セント・フィランゼ島は大きな円形の島であるが、つい近年まで発見されるに至らなかった。なぜならば島の近海の波があらゆる船を飲み込んできたからである。ただ卓越した船乗り、キャプテン・ポロッポだけはその荒波を越えて、島を確かに発見し、それを本国へ報告した。ポロッポの発見は非常な評判となり、本国始め多くの貴族が金を出して探検隊を募り、セント・フィランゼ島へと赴かせた。そして、島に上陸した最初の例が、彼らネスケモ探検隊の5名であったのである。

 フィランゼ島は中央に双子の巨大な火山を備えている。地形はほとんどがこの火山から噴出された岩のせいでごつごつしており、遠くから島をみると灰色の不気味な雰囲気を醸し出している。しかし前の噴火から少なくとも1000年は経っているのだろう、草木は生い茂り、深い森が山のふもとに点在している。ある地学者によれば、この島には豊饒な金鉱が発見される可能性があるというが、専門家の意見は必ずしも一致していない。

 ネスケモ探検隊は、隊長であるネスケモ含め、勇敢な男の集団であり、経験豊富な老練の探検家揃いである。しかし今回の探検が一筋縄ではいかないことは、ベテランの彼らこそ大いに理解していた。ネスケモの夢見は悪いし、元黒人奴隷のアウチャケの呪術も不吉な結果を示している。唯一の日本人、イシカワの下駄の鼻緒は切れ、若いインディアンのベルガンホークは海に照らされた月光の中に悪霊の笑みを確かに見たと言って大騒ぎをした。極めつけは、白人登山家のミッテランの教書の1ページがネズミに食われたのだが、穴開きのそのページを読むと、

「汝ら、山上の死を待望せよ」と解釈できる一文があったことである。

 ただし、探検隊の面々の能力と経歴を知った者ならば、これからの旅路に多少の安心を抱くことが出来るかもしれない。

 隊長のネスケモは中年のインディアンで、バナハの繊維で編まれた腰巻のほかは何も身につけず、ただ壮観なほど鍛え上げられた筋肉の鎧で武装した優れた戦士である。部族の長の長子であることを誇りとしており、どんな猛獣と出会っても間違いを犯すこと無く仕留めてきた確実な経験がある。馬に乗らせたら右に出るものはなく、投げ索ボラゾを扱わせたら、逃れられる獣はおるまい。顔にはインディアン特有の赤の横線で装飾を施す。

 副隊長の黒人アウチャケは呪術使い。しかし体躯は見事なもの、探検隊中一番背が高い。探検隊の荷物のほとんどをアウチャケが責任を持って運搬する。投槍の腕はしかし、夕飯の獲得に大いに貢献していると言って良い。元々荷物曳きの奴隷として今回参加していたが、船内で見せたある活躍により出世し、自由の身となった。この活躍については後に語る機会もあろう。ただ今は自分の力の誇示のためにのみ、自分の意思ですすんで荷物を曳いている。

 観測係は本国政府よりその任を命じられた、白人のミッテラン。学者風の男ではあるが、どうしてどうして、なかなか勇敢な気質を持っていると認めなくてはなるまい。銃の扱いに長けており、困難な道程においても決して野蛮人種に後れを取らない鋼鉄の意思を具えている。ただ優れたる戦士達はお互いにその強さ以外の評価の尺度を適用しないのであるから、肌の色はまったく関係無しに、隊員と強固な友情を結んでいる。

 そしてネスケモの部下の若い二人ベルガンホークとイシカワ。ベルガンホークはインディアンで、健康で堅固な筋肉の泥人形とでも形容すべき男である。馬を巧みに乗りこなし、投げ索ボラゾを上手く投げる点ではネスケモに大きな後れは取らない。日本人イシカワは、阿字ヶ浦海岸で海水浴をしていたところ、高波に攫われて漂流し、死にかかっているところをマルトフリース号に助けられた。その恩返しに探検隊に志願したのだが、彼の手工業の技術が高く買われ、探検隊に快く受け入れられた。彼はハサミ職人の息子である。刃物に関しては幼少の頃からの訓練で、西洋の専門家顔負けの技術を持つ。