ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

画廊召還、意地をみせよ大法官。

今週のお題「2012年、どんな年だった?」

2012年は大いなる躍進の年でありました。
歴史的敗戦を潜り抜けてきた我が祖国第5インドは、大英帝国臣民としての矜持を抱きつつ、これからも工業生産において世界でその最前線を独走し続けるでありましょう。

さて、近年度々話題となる放浪の民について、私からも少し意見を述べさせていただきたいと思います。

放浪の民は、皆さんご存知ではあると思いますが、第5インドに流入してくるパキスタン出身の労働者のことを指す言葉であります。
急進的民族派政党であるインド愛国決死党に言わせると「我が国に持ち込まれるペスト菌のようなもの」であるそうですが、インド共産党などは「国際友人として歓迎すべきプロレタリア階級の同志」という見解を持っており、放浪の民に対する視線には様々な種類が存在することが分かります。

ところで漸進的社会民主主義政党であるところのインド・ソーシャル・デモクラティック・パーティなどはその内部にノンセクトラディカルの左翼思想学生を違法な手段を以って匿っているとのことで、今回、私は単身調査をしてまいりました。

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2012年12月5日。

デリーのホテル「マハトマイントゥーガンジス」にチェックイン。
インド・ソーシャル・デモクラティック・パーティ(以下ISDP)本部とは目と鼻の先のホテルである。言わずもがな、明日の潜入に備えるためにこのホテルを価格やサービスを度外視して選択した。
本来なら、私もバックパック背負ってインドに降り立つ日本人東洋哲学ニューレフトドラッグ貧乏大学生ではあるまいし、よりマシなホテルに泊まりたかったのだが、背に腹は代えられまい。

このホテルについて、私はどうにも不快な噂を2,3耳にしていた。
そのうちの1つは、「このホテルには破壊神シヴァの強い霊力が漂っており、それが宿泊客に不幸をもたらす」というものである。
何が破壊神か、小学生の時分に流行ったうしろの百太郎ではあるまいし、そんな滑稽ささえ含んでいる突拍子もないオカルトに動揺するわけがないだろう、と私自身大いに油断をしていたのだが、実際に痛い目に遭ってしまう事になった。今からそれを陳述させていただこう。

チェックインをしてすぐ、部屋に荷物を置いてシャワーでも浴びようかとシャワールームのドアを開けたのが現地時間16時頃。
まだ外は明るく、インド特有のあの心地よい神聖さを伴う喧騒、生命力の爆発の連続が地球の一点、あるいはガンジスの流れに沿った一区域に集中されたのであろうかと半ば確信してしまうくらいの勢いをもった圧倒で私を逐一驚かせるあの喧騒は未だ止まず、外気の悪臭も空調設備から流れ込んできて、たとえホテルの一室であってもインドをインドたらしめるあの粗野な環境から逃れることのできない現実に、つい頬をほころばせる、そんなワンシーンを想像してもらいたい。

私は明日のISDPへの突入と生還のプランを上機嫌で練り上げつつ、あまり清潔とは言えないシャワーから水を浴び始めた。すると突然、水が話しかけてくるではないか。

「君のような人間がこのホテルに来るとは。大いなる意志と大地に導かれているような特別な人間、あるいは自分を選択された人間であると信じて疑わないような人間、選民思想、そのどちらも本質は変わらないのであるが、そういった人間と一線を画する君は、このホテルにふさわしいとは思えない」

「水のクセに言葉を喋るとはただ事ではない。なぜなら、水はそういう能力を与えられる神的能力の恩恵に授かることが珍しいからだ」

「よくぞそれを言った。私はシヴァの悪霊。人は私のことを破壊神とも呼ぶなあ。しかし私が破壊するのはただ一つ、つまらない因習と緊張だけだよ」

「これはなかなか興味深いことを言うのですね。もしかしたらあなたは僕にとってとても良いビジネスのパートナーになるかもしれない。どうしてどうして、僕は水に対する信仰を疑ったことは生涯一度も無いし、実際的に、科学者としての僕は水の有用性を大いに理解しているのだから、それをビジネスに転用するのもわけはない」

「君はつまらないことを言う。ビジネスがそんなに偉いか。ビジネスなど放浪の民の死体と共に焼き、ガンジスに流してしまったらいい。私が提案するのは次の2点だ。1つ、私と労使関係を結ぶことなど考えず、ただ君が私であり、私が君であるような、そういった協調を目指すべきであること。1つ、あるいは街道に忍び、あるいは地下道に伏し、隠遁的奢侈生活の至福を経験すべきこと」

「然り。大いにあなたには感服いたしました。すべてあなたの助言の通り行動し、人生を享受することとしましょう。ああ、なんと私は幸運であることか。人を超えたものと言語を介した接触を経験できるなんて!さしあたりは、その2点について、実現できるように計らいましょう」

「ではそのように私も動こう」

このようにして、私とシヴァの人類史に残る恐ろしい会談がなされ、人間と超人間とのゆるやかな同盟関係が成立したのだ。

それからの私は人が変わった様に働いた。

徹夜で哲学的問答と瞑想を行い、一晩かけて真理探究(ゲルタヴァーナ)の人類史最前線に躍り出ると、体は軽くなり心は浮き足立ち、頭は鋭敏に、脳は冷静に、神経は的確に、精神は堅牢に改良され、その分食欲は爆発し、睡眠欲は拡張し、性欲は暴走したのである。

まずISDPの本部に翌10時に突入、受付を任されていた24,5歳と思われる美人の才女を水を用いて束縛し、適切な言語を用いて懐柔、性的接触と金銭的援助を獲得し、その場で食料の使いに走らせることに成功した。

騒ぎを聞きつけたパキスタン人ガードマンを水を用いて眠らせ、本部の核心部である地下5階、社会主義前線臨時議会室まで順調に走破、その間邂逅した美人の日本人才女との言語を介さない性的接触数回、食料品の調達の偉大なる尖兵と化したISDP職員数知れず、実に見事な活躍である。

社会主義前線臨時会議室の重い金属の扉を水を用いて楽に開けると、中にいたのは日本人第5インド総督にして日本人女性強制労働移民計画の首謀者である、元お笑い芸人にして様々なスキャンダルのネタを生み出した国民的エンターテイナー「ギャッチーギャッチー」の「山崎良雄」が、100畳はある大きな部屋の中央に鎮座するイタリア製最高級ソファーに佇んでいた。

ソファーで睡眠を数時間とった後、既に逃げ出した山崎の後を追うこともせず、第5インドで隠遁的奢侈生活に勤しむことになるのだがそれは別の話。

例えば特権的公務員や地方有力者に利用が許されている裏風俗街や、世界中の資本家階級が集う超裏ポルノコミュニティーなどで水を用いた非常に不可思議で大胆な活躍を果たすのである。

詳しい話が聞きたければ、また連絡をくれ。

それではな。

――第5インド、デリー郊外における地下街入り口廃墟の快適な住居より愛を込めて。