ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

現代帝王爆誕章

闇の帝王、大山田士郎はこの世の光の全てを一身に浴び、社会福祉分野に有力な人脈と調整能力を持つ老獪にして卓越した政治家に成長した。
大山田は理論のみに留まらない、実践を前提とした社会倫理について自己流の体系を創り出し、それに強烈な確信を抱いていた。

しかし社会の方は歯の治療を嫌がる駄々っ子のように、彼の倫理の適用を頑なに拒んだのである。
彼の確信は社会への根本的な疑念にとって代わり、やがて隠遁を望んだ。
隠遁は清き利他精神の健全な到達点である。大山田は疑念を抱きつつもその精神の変質までは許さなかった。

現代日本において、特に彼の如き地位も責任もある共同体の紐帯によって束縛された人間にとっては、隠遁生活というものは絵に描いた餅、洞穴に描いた楽園、怒り無き十一神、すなわち実現が非常に困難であることは言うに及ばない。
大山田は一般に考えられている、物理的に人里を離れ、孤独の内の平安を暮らす隠遁というものを超える発想に救いを見出した。

かくして大山田は、才能と努力で身につけ経験で磨き上げた金剛石の政治能力を最大限に発揮し、ある年の衆議院選挙では某中道左派政党から出馬し当選、その翌年には党を離脱し(表面上の)同志と共に新党「日本偽神の会(にほんぎしんのかい)」を結成、国会内外部からの巧みな政治戦術によって時の大連立内閣を解散に追い込み、遂に結成から6ヶ月というスピードで党を衆議院における第一党の地位にまで押し上げ、自身は内閣総理大臣に就任したのである。

大山田は議会及び行政府のみならず世論をもその手中に収め、さらには自ら執筆した法体系論文を以って法曹界に対しても多大なる影響力を獲得し、国家全体をその鷹のような慧眼の視界に安置した。

もはや大山田は孤独であった。彼の望んだ隠遁生活は、権力を莫大な規模で自身に集中しこれを保有することで達成された。

彼は絶対王政期の文化をこよなく愛した。おそらくそこに己と同じく隠遁生活を送った真の同志を見出したからであろう。

彼はナポレオンの肖像に毎晩接吻をした。もしかしたら、自分はナポレオンの生まれ変わりである、という社会派バラエティでの発言も、あながち冗談ではなかったのかもしれない。


倫理は隠遁に帰結する。

隠遁は権力に帰結する。

権力は帝王に帰結する。

帝王は偽神に帰結する。