ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

第5インド紀行――『太郎書簡集』に収蔵

僕の名前はジェネネ・ポロンクアータス・ミフトバーエンではない。太郎だ。
僕は究極のカレーを探して世界中のインドを旅している。
インドはパキスタンが分離独立したためその面積を大きく減らしたが、その分究極のカレーは見つけやすくなったと思う。
2009年にはユーラシア第5インドのデリーに到着して、インディア・マハトマホテルに8週間宿泊した。
マハトマホテルには豪傑が3人いた。

1人は筋骨隆々の力自慢。クシャトリア階級の生き残りで、いつも金の柄のサーベルを腰に携えている。シク教徒で、派手な紫色の服を着ているから、その大きな図体とも相まって遠くからでも用意に発見できる出で立ちをしているのだ。名をジェネネ・ポロンクアータス・ミフトバーエンと言うらしかったが、どうもそれは嘘らしい。本当はヤパネル・大河原・ジョーデムという名だということだ。

2人目は肌から骨が露出するほどの官能的な肉体の持ち主。ヨーガの達人で、膝と肘から骨を瞬間的に成長させてナイフにし、相手を殺すのが得意なアサシンだ。これまでも国民会議派の有力者達を数多く葬った実力者だそうだ。彼との出会いは最悪だった。僕がガンジスの辺で物乞いをあしらっていると、突然首筋に冷たく硬いものが押し付けられた。それが彼のナイフだったのだ。カレー絶技第6番「下痢ラ豪雨」でその場は乗り切り、すぐに打ち解けて仲良くなったけれども、お互いの殺しの技を見せ合ってしまった男同士の友情というのはこれはこれで気を使うものなのだ。名前はジェネネ・ポロンクアータス・ミフトバーエンではないということだ。聞く所によれば、武★双★神と名乗っているらしい。

3人目はインド政府の役人で、国民の平均より高い給料をもらっていることが誇りの神経質な男だ。色好みで、ニューデリーの娼婦街ではちょっとした有名人らしい。この間、面白い場面を目撃した。彼がカルカッタ郊外で物乞いに2000ルピー投げ付けて腕を組むそぶりを見せると、その物乞いが何か合点したらしく立ち上がり、そばにあった東ティモール製の粗悪な発炎筒で煙を発生させた。すると10分もしないうちに日本からの輸入品だと思われるトヨタの中古車(インドでは高級とされる)が飛んできて、彼を乗せて何処かへ行ってしまったのだ。後から問い詰めると、どうもその物乞いは非合法裏売春組織の渉外役で、彼のような贔屓客を案内するために乞食の格好をして待機しているということだった。車で向かった先は、差し支えがあるといけないから地名は伏せるが、とにかく無法地帯のような地区で、そこで存分に美味しい思いを、この世の春を満喫することができるらしい。端的に言うと、東南アジアのようなキャリア娼婦では無く、日本も含めた先進国から輸入した、故あってかつて上流階層であったが今は落ちこぼれてしまった女などが一桁から三桁までの年齢層全て豊富に用意してあるということだ。天にも昇るような心地をした目で語ってくれたが、どうせ役人特権でそのようなことが可能なのだろう。この国では役人は一種の特権階級なのだ。そんな訳で身分上当然名前を彼は語りたがらないが、僕はここで勧善懲悪の倫理観に大いに則って、彼の名を明かそうと思う。彼が、彼こそがかの残虐非道にして冷酷無比の最悪の凶人、ジェネネ・ポロンクアータス・ミフトバーエンである。


リクエストがあったら、彼の案内で(彼に口止め料として買収されて)例の非合法裏売春地区に行って大いに遊んだときのことを書こうと思うから楽しみにしていてくれ。


――ジャック・アンデルムスの「Das Wort」を聴きながら

太郎 Taro  デリー 第5インド マハトマホテルのバルコニーにて。