ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

(ガイダンス)夢想の流儀の流儀

1.夢想は獅子の疾駆でなければならないであろう。
2.勝利のための勝利を重ねなければならないであろう。
3.決して常人に到達し得ない領域にあらねばならないであろう。
4.アキレス腱はおそらくその卓越によって護持されることであろう。
5.悪夢は望まれないであろう。
6.サキュバスはまた時折立ち現れるであろう。
7.諦めるな、夢想を決して諦めるな


僕はいじめられています。中学2年生です。田口です。あだ名はメンジャーです。どもりが酷くて、それを小学校の頃からからかわれていました。運動神経も良くなくて、体育の授業は最悪です。髪は天然パーマで、たまに放課後ライターで焼かれたりします。僕をいじめるのは特に、山川と栢山です。山川は背は僕と同じくらい小さいですが、運動神経が良くて、また素行も乱暴なために同級生の間では恐れられています。栢山は背が大きく筋肉もあり、リーダーシップも発揮するために同級生と教師、すなわち僕以外の全てのひとびとから人気があります。今日は僕は、この6時間目の授業が終わったら、野球部の部室に行っていじめられなければなりません。野球部の部室は僕をいじめる格好の舞台です。教師もめったに来ませんし、乱暴な野球部員は僕をいじめるのを最高の娯楽と考えています。いつもびくびくしながら向かいます。しかし、

――怒神を宿したこの僕が、何を恐れることがあろうか?

ガラガラガラ。僕は野球部の部室の引き戸を開けました。ムワっと汗臭い匂いが鼻につきます。
部室には山川栢山含め部員が6人いました。

「メンジャーおっせぇ!」

さっそく金属バットがこちらに投げられます。昨日までの僕だったら顔面で受け止めていたことでしょう。そして痛みをこらえながら半笑いで、次の責め苦に耐えようと身構えたでしょう。しかし今日は違います。

スパッ、と手でバットをキャッチしました。まるで手にバットのほうからキャッチされにきたかのように。このアクションは山川からみたら生意気に映るでしょう。ほら、さっそく怒り心頭のようです。

「は?てめぇキャッチしてんじゃねーよ。てめぇのグローブはそのブサイ顔だろカス」

愚かです。怒りとはそういうものではない。今日は僕が本当の怒りというものを示そう。

「おい、なんとか言えよキモメンジャーが」

そう言って、山川は全力で硬式ボールを投げてきました。

しかし、左手にスッとボールが収まります。
まるで衝撃を感じさせない華麗なキャッチです。
この程度の物理的運動、僕に宿る怒神《レイチェルハヴァー》から供給される力で簡単に制御できます。

「……」

さすがにいつもと違って無表情でバットもボールもいなした僕に何らかの異常を感じたのか、野球部員たちの動きにためらいが生じました。

「おい、なんだよてめぇ、喧嘩売ってのかオイ殺すぞ」

一瞬の静寂を破ったのは栢山で、こちらにノシノシ向かってきます。さしずめ僕の胸倉でも掴む算段でしょう。しかし今日は、貴様ら死すべき蛮族共には、指一本この深い真理の恩寵に浴した僕の体に触れさせるつもりはない。

ガキンッ!

「……!ぐっ?」

何が起こったか理解できないのも無理はないでしょう。昨日まで抵抗のそぶりをも見せなかったどもりのチビのザコが、急に豪胆な無表情で掴もうと伸ばした腕を、難なく折ってしまったのだから。

「うふぅー………うー…うわああ……」

栢山は僕の前に倒れて、腕を押さえて悶絶し始めました。

「おっ、栢山、大丈夫か大丈夫か?」

野球部員達が栢山に駆け寄ります。
僕はここは野球部の部室ですが、サッカーがしたくなりました。
そして目の前には4つのサッカーボールがあります。

ペキ!ペキ!ペキ!「うわぁ!」ペキ!

野球部員達の顎を蹴り上げました。まあ頸の骨が折れて即死でしょう。もろいサッカーボールですね。

栢山に駆け寄らず、僕に今まさに金属バットで殴りかかろうとしている愚者がいますが……。

ドフゥ!「ゥ……」

腹を殴って内臓を破裂させておきましょう。口から内容物が吐き出されて汚いですね。山川は僕をさんざん汚い汚いといって足蹴にしましたので、僕もそれに倣います。

カッカッカッ!

目や鼻を損壊させるためにつま先で蹴りを連発します。既に意識の無い山川は規則的なうめき声を上げるのみです。

――さて、もうここはいいでしょう。僕は怒神を宿した男なのだから、他にやるべき偉大な仕事はいくらでもあるのです。


【2年後】

「我が敬愛する君主田口様、田口様第一の下僕、杉山です。」

「うむ、入れ。」

僕田口、かつてのメンジャーは、あの後、気の済むまで校内の旧敵を殺戮、或いは拷問し続けた。ひとつ誤解無きように念を押して言っておくと、僕は女子生徒に性的な攻撃は決してしていない。そんな情欲を奴らに抱くことなんてありえなかったのだ。怒神の解放はすなわち性欲の解放でもあるが、僕の情念はもっと崇高な方法で情欲を満たすことを望んだ。さて2時間ほど暴れまわったところで、教師の通報で警察が来たが、奴ら中学生が荒れてる、程度の認識でやってきたから、装備も貧弱で人数も20人くらいで、簡単に僕の手で二度と立てない様にしてやることができた。文字通り。まあ当然の報いだろう。公僕はすなわち当時の政治体制を支持する下僕であるから。

お察しの通り、今僕は日本の君主だ。4ヶ月で警察を壊滅させ、7ヶ月で自衛隊を解散させ、無秩序に陥った日本に入り込んだ米軍を排撃し、混乱と騒擾の中、一人の僭主として部下を増やし、対立勢力を根絶やしにし、やがて新国家建設まで至ったのだ。
そう、まさしく新国家。君主は僕。部下は僕の選んだ男達。妻は、まあおもしろ半分で旧日本の王室からもらった。実際器量はいいから不満は無い。妾は僕が欲した国民全てから選択する。現段階で合計30人くらい。国民は僕の法律に従う。主権者は僕だ。国民は僕の所有物だ。

対外関係は最悪だ。米国は僕の国に核兵器を落した。僕が素手で投げ返したら米国はなくなった。今は僕の国がスーパーパワーだ。ただ僕、今の所内政の仕事に満足してるから、他の国にちょっかいかけない。まあ妾漁りに飽きて外人が抱きたくなったら考えようかな。


続く