ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

嫌がるな、怪光を嫌がるな

今週のお題「最近あった良いこと」

『「うわあ、とてもまぶしいです」

それが彼の発した第一声だった。

私は彼の喉元に、缶コーヒーを投げつけてみた。
すると彼は、上の言葉を発したのだ。

元来彼は無口である。
言葉を引き出すには、物理的な力を以てする以外になかったのだ。

しかし、まぶしい?
妙である。缶コーヒーがまぶしいとは。
後によくよく理由を聞いてみると、以下のことが分かった。

1.缶コーヒーの打撃を受けた際、軽度の脳震盪とそれに付随する幻覚作用で、不快な強い光のイメージに脳が占領された。脳は瞼を持たず、光を遮断する防護壁の役割をする器官のないままに外界に晒されているから、どうしても物理的な衝撃には弱い。

2.幻覚はある種の奇妙なシンボルを繰り返すものであった。小さいアワビの繁殖力が海の底を埋め尽くし、生態系のバランスを危うくさせるという危機感が170度ほどの角度を伴いながら回転し、主に暖色系の色彩を放つ光が幾何学的文様を生み出していたのである。


用事が済んだので私は彼を放牧してやった。
彼は子を多く作り、子らは2億3000万円ほどで売れた。
特に整った顔立ちの血統を持つ雌人とペアリングすると、今流行の色白の丸い小顔につややかで繊細な黒髪を生やしたのができたから、大いに儲けた。

家畜の管理は大変である。
まず飼料だが、皆さん家畜に食わせる穀物をそのまま人間が食べたら、食料の不足が一挙に解決されるという説を聞いたことがあると思う。
実際にその通りで、彼らは私達に最終的に提供する肉に対して、あまりに消費する穀物の量が多い。
だから私のように、略奪的放牧が一番楽で、エコだ。

市場に出さなくとも、家庭内消費として家畜を飼うのは良いことだ。
私は金銭的な野心は強くないから、善い品種が手に入ったら自分で楽しんでしまう。
先日、東北地方系の血統書付き雌人を仕入れて、例の彼とペアリングさせできた子を9年間手塩にかけて育てたのを、そろそろ頃合いと思ってよくよく観察してみたら、まあこれ以上無いくらいの気品と美を有するに至ったようだから、さっそく解体して堪能した。
膨らみかけた胸部のやわらかさと脂肪の定着具合が堪らなかった。
性器はまだ生殖が可能になっていなかったから、禁忌交配の心配をすることなく、丁寧に楽しんだ。

子は解体する瞬間が一番美しい。断末魔がモーツァルト的悲愴の呈を帯びて、天上の音楽とはこのことか、と確信させる。

今週に入ってから新しい血を私の家畜達にインジェクションしていないので、すぐにでも雌人を手に入れなければと考えている。
特に南方系、四国地方系の血を所望する。



人には二種類ある。私と、それ以外の私の所有下にある者共、である。』


――この文章は、49世紀における支配者階級の、典型的著作の一部を引用したものである。



――そう、思索せよ、過てる歴史の侵攻が、いかなる帰結をもたらすのか!