ゲルタ・ストラテジー

唯一神ゲルタヴァーナと怒れる十一の神々に敬虔なる真理探究者たちの散兵線における無謀を報道する。

まえがき

狂気は個人にあっては稀有なことである。しかし、集団・党派・民族・時代にあっては通例である。

――ニーチェ『善悪の彼岸』 箴言と間奏 より


秩序と平和の偽神は下界に降り今をあまねく先進諸国をしろしめしなさっている。
しかしながら偽神は神たり得ぬ不完全な体系であり、人間と神を繋ぐ脆く千切れそうな吊橋の存在である。
人間は神からその身を授かって以来、その持てる知恵を以ってあらゆる神の造物を取り込んできたのであるが、ここにおいてもその吊橋を特有の工夫で補強し、使用に耐えるましなものとして維持しているようだ。
だがあくまで吊橋は吊橋。石橋ほど強くはならないし、破壊の狂気にさらされてはひとたまりもない。
多くの人間がぶら下がり、身を預けているその数珠のような偽神を下界から追放すべく現れた一人の狂人こそ我らが奴隷アクレケスであり、その示唆に富んだ物語はいかなる経典にも引けをとらない教えを万人にもたらすであろう。
そしてそれは、アダムとアダムから作られしイヴが肉体を一つに求めたことによって創造される子らとその親の、不足を補いつつも祈りを捧げ生を享受するその村落や都市にあっては、まぎれもなく日常的に発生し通例となっている教えである。