車車輪
警告を無視して粋がる男の群れは
ああ真っ赤に光る夕焼けのよう
適者生存主張して
タネをまくのはヒトの勝手
さあ方々を感化しよう
害虫の忌避剤のごとく
驕れる己に感謝を示し
先の見えない直線道路
――磯山和人著『現代詩』より引用
磯山氏の名著の魅力は改めて説明するまでもないと思う。
ヒトと会ってはヒトを切り、の志を持った人間の強さ、そしてはかなさを一片の錆も許さない名刀の如き冷たさで描写するその現代詩作の極致は、いわば日本文化の孝行息子だ。
特に私が心を打たれ、会う人皆に紹介している一篇をここに引用しておく。
己が頭を石鹸で泡立てる
石鹸は毛髪をこねくりまわし
毛髪は泡の官能に執心だ
黒い森は深くなった
立ち入る者は出ることができない
秘すれば花の黒い森だ
――磯山和人著『近代詩作集研究作編』より引用
無機と有機の中道、生命と非生命の境界であるところの、神経の通らない体の一部であるところの毛髪に官能と美の輝かしい生命を吹き込み、最高の強者に仕立て上げてしまう情緒の麗しさよ。
毛髪の力強き成長の黒と泡沫の繊細で流動的刹那的な白が混ざり合い、言語で表現が可能なところの究極のコントラストを表現せしめ、狂おしいほどの心地よい韻律を作り出しているのが諸君ら分かるか。